「AGI」と呼ばない理由 ルカン氏新会社AMI LabsのCEOが語る世界モデル戦略
AI業界が「AGI」から「超知能」へ呼び名を変え続ける中、ヤン・ルカン氏が設立したAMI LabsのCEOアレクサンドル・ルブラン氏はどちらの言葉も使わないと語りました。世界モデル戦略とロボティクス連携を解説します。
重要ポイント
- AMI LabsのCEOアレクサンドル・ルブラン氏は「AGI」も「超知能」も使わない方針を明言
- 理由は「明確な定義がない、実用的な言葉ではない」ため。業界が呼称を次々乗り換える傾向にも言及
- 同社はヤン・ルカン氏(Meta退社・チューリング賞受賞者)が創業に関わり、ルカン氏は会長職
- 2026年3月に10億3000万ドルを調達し、評価額35億ドルに到達。欧州最大級のシード調達と報じられている
- 現在は製品未発表の開発段階で、ロボティクスや製造業との提携を通じて実世界データの獲得を進めている
このニュースを仕事でどう使うか
- 編集部としては、AI導入を検討する日本企業にとって、派手な呼称よりも「その技術が自社の業務のどの部分に、どの程度使えるのか」を具体的に見極める姿勢が引き続き重要だと考えます。
- 特にロボティクスや製造業など物理世界を扱う現場では、LLMベースのAIだけでは対応しきれない領域が残っている点は、今後の技術選定の参考になりそうです。
米TechCrunchは2026年7月16日、ヤン・ルカン氏(Yann LeCun氏、チューリング賞受賞者)がMeta退社後に設立したAI企業AMI Labs(Advanced Machine Intelligence Labs)のCEO、アレクサンドル・ルブラン(Alexandre LeBrun)氏へのインタビュー記事を掲載しました。生成AI業界の多くが「AGI(汎用人工知能)」や「超知能(superintelligence)」という言葉を掲げる中、ルブラン氏はどちらの呼称も使わないと明言しています。同社はルカン氏が提唱する「世界モデル」の実用化を目指しており、まだ製品を市場に出していない開発段階にあります。取材はルブラン氏が国際会議ICML出席のため韓国・ソウルに滞在中に行われました。
背景
生成AIの急速な進化に伴い、「AGI」という言葉は各社が独自の基準で使い回す中でその定義が曖昧になり、最近は「超知能」という新たな呼称に置き換わりつつあります。ヤン・ルカン氏はMeta在籍時から、文章の次の単語を予測する大規模言語モデル(LLM)だけでは物理世界の理解や計画立案に限界があると主張しており、Meta退社後に「世界モデル」の研究を軸とする新会社を立ち上げました。
詳細
ルブラン氏は取材で「AGIという言葉は一度も使ったことがない。そして今、誰もその言葉を使わなくなり、超知能に乗り換えたことに気づいた」と述べ、「次はまた別の言葉に切り替わるだろう」と業界の呼称の移り変わりを皮肉りました。「超知能とは何か。明確な定義がなく、あまり実用的な言葉ではない」とも語っています。
AMI Labsが開発する「世界モデル」は、Transformerを基盤とするLLMが次の単語を予測するのに対し、物理法則を踏まえて環境の次の状態を予測する仕組みだとされています。ルブラン氏はLLMと世界モデルの関係を「補完的であり、代替するものではない」と説明しました。現状のロボットについては「決まったルーチンを繰り返すだけの静的な存在で、物理世界におけるAIはまだ非常に未熟。安全性の面でも今のところ解決策がない」と課題を指摘しています。動画生成AIの分野でも、PixVerseがゲーム・ワールドビルディング向けの「ワールドモデル」製品を拡充するため大型調達を行ったと報じられるなど、世界モデルへの投資は複数の企業で同時に進んでいます。
同社は2026年3月に10億3000万ドルのシード資金を調達し、評価額は35億ドルに達したと報じられています。出資者にはNVIDIA、Temasek、Samsung、Toyota Venturesといった企業に加え、Jeff Bezos氏やMark Cuban氏、Eric Schmidt氏ら個人投資家も名を連ねているとされています。本社はパリに置かれ、ルブラン氏は仏ヘルステック企業Nablaの創業者でもあります。現時点で製品は未発表ですが、「実世界へのアクセスが必要であり、それにはパートナーと組む方が近道だ」として、ロボティクス・製造業・電子機器分野の企業との連携を進めています。取材時、ルブラン氏はICML出席のため韓国・ソウルに滞在しており、同国のロボティクス・半導体・製造業の厚みやAI活用への積極性に注目し、現地パートナーの開拓を進めていると報じられています。製品の投入時期についてルブラン氏は「準備ができた時にサプライズを用意する」と述べるにとどめ、具体的な時期は明らかにしていません。
なぜ重要か
「AGI」や「超知能」という言葉は、AI企業の技術力や資金調達力をアピールする際のマーケティング用語として使われがちですが、AMI LabsのCEOがあえてその言葉を退ける姿勢は、業界内の誇大表現に対する一つの反応として注目されます。日本の読者にとっても、AIサービスや投資判断を検討する際に「AGI」「超知能」といった言葉の中身を鵜呑みにせず、実際に何ができるのか、どんな限界があるのかを見極める視点が参考になります。また「世界モデル」という、LLMとは異なるアプローチの研究開発が大規模な資金を集めて進んでいる事実は、生成AI一辺倒ではないAI技術の広がりを示す事例といえます。
今後の見通し
AMI Labsはまだ製品を発表しておらず、世界モデル技術が実用段階に達するまでには時間がかかる可能性があります。今後、ロボティクスや製造業分野でのパートナーシップの具体化や、韓国をはじめとするアジア市場での展開状況が注目されるとみられます。
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