税理士や社労士の仕事には、法改正や制度の仕組みを、専門知識のないお客様にもわかる言葉で説明する場面が数多くあります。とはいえ、繁忙期に一件ずつ説明資料をゼロから書き起こすのは大きな負担です。生成AIを「下書き担当」として活用すれば、専門用語をかみ砕いて一般向けの文章にする作業を大幅に時短できます。ただし最終的な正確性の担保は専門家自身の仕事であることは変わりません。この記事では、顧客説明資料の下書きをAIに任せるための具体的な手順と、運用時に押さえておきたいチェックポイントを紹介します。
なぜ説明資料づくりはAIと相性が良いのか
顧客説明資料の作成は、大きく分けると「専門知識を正確に把握する」工程と「その内容を平易な言葉に言い換える」工程の二段階に分かれます。前者は資格を持つ専門家にしかできませんが、後者の「言い換え」はパターン化しやすく、AIが比較的得意とする領域です。
専門家自身が一から資料を書こうとすると、日頃使い慣れた専門用語がどうしても抜けきらず、結果として読みにくい文章になりがちです。そこでAIに「一般読者向けの草案」を作らせ、専門家は内容の正確性と表現の適切さをチェックする、という役割分担にすると効率的です。あくまでAIは下書き担当であり、最終的な内容の責任は専門家が負う、という前提を崩さないことが重要です。
下書き作成の基本手順
実際の作業は、以下のような順序で進めると迷いにくくなります。
- 説明したい制度や手続きの要点を、自分の言葉で箇条書きにしてAIに渡す
- 想定する読者像を具体的に伝える(例:「従業員を初めて雇う個人事業主」「相続をこれから経験する高齢の顧客」など)
- 読解レベルの目安を指定する(例:「専門用語を使わず、業界初心者にもわかる言葉で」)
- 分量やフォーマットの希望を伝える(例:「A4一枚に収まる箇条書き中心の資料」)
- 出てきた下書きを専門家自身が読み、事実関係・数値・期限を一次情報と照合する
- 誤解を招きやすい比喩や、断定しすぎている表現を修正する
このうち5と6は省略できません。AIの下書きはあくまで「わかりやすい言い回しの候補」であり、制度の細部や最新の改正内容まで正確とは限らないためです。
依頼の仕方を具体的にする
同じ内容を伝えるにも、AIへの依頼の仕方によって下書きの質は大きく変わります。次のような要素を組み合わせて指示すると、修正の手間が少ない下書きが出てきやすくなります。
- 読者の立場(初めて制度を利用する人か、過去に経験がある人か)
- 伝えたい結論を先に一文で示す(例:「今回の改正で保険料の負担が変わる、という結論を最初に書きたい」)
- 避けたい表現(断定的な言い切り、不安をあおる表現など)
- 資料の使い道(対面で説明しながら使うのか、読み物として渡すのか)
一度でうまくいかない場合は、「もっと専門用語を減らしてほしい」「結論を先に書いてほしい」など、修正の方向性を具体的に伝えて何度かやり取りするのが近道です。一度の指示で完成形を求めるより、二〜三回の対話で仕上げていく前提で使うと、結果的に時短につながります。
運用時に気をつけたいこと
AIを下書き作成に使う際は、便利さの一方で注意すべき点もあります。実務に組み込む前に、次のような点を確認しておきましょう。
- 個別の顧客名や、顧客を特定できる情報を入力しない。入力する内容は一般化・匿名化した形にとどめる
- 数値・期限・適用条件など制度の詳細は、必ず一次情報(法令・通達・公的な案内など)で専門家自身が確認する
- AIの下書きに含まれる断定的な言い回しは、実際にはケースによって結論が変わる可能性がある場合、条件付きの表現に直す
- 最終的にお客様へ渡す判断やアドバイスの言葉は、専門家自身の言葉で書き直す
- 事務所内で使う場合は、どこまでAIに任せてよい作業かを事前にルール化しておく
まとめ
- 顧客説明資料づくりは「専門知識の把握」と「言い換え」に分け、後者をAIに任せると時短しやすい
- 要点・想定読者・読解レベルを具体的に伝えることで、修正の少ない下書きが出やすくなる
- 一度で完成を求めず、二〜三回のやり取りで仕上げる前提で使うと効率的
- 数値・期限などの正確性確認と、断定表現の見直しは専門家自身が必ず行う
- 顧客を特定できる情報は入力しないなど、事務所内での運用ルールを事前に決めておく