Googleは2026年6月30日、英国におけるAIの経済効果と職場での活用実態をまとめた記事を公式ブログに公開しました。執筆したのはGoogle UK&IrelandのVP兼マネージングディレクター、Kate Alessi氏です。同社の2025年版Economic Impact Reportと、調査会社Public Firstとの共同調査の結果を基に、英国がAIをどう活用し、どこに課題が残っているかを報告しています。

ポイント

  • Googleの経済効果レポートによると、英国での総経済活動への貢献は140億ポンドで、グレーターマンチェスターの経済規模に相当すると報じられています
  • このうち60億ポンド以上(全体の40%超)が中小企業にもたらされたとされています
  • Googleの技術により、英国全体で週51百万時間の労働時間が削減されたとされ、これはNHS(国民保健サービス)全職員の週間労働量に匹敵する規模だと報告されています
  • Public Firstとの調査では、職場でのAI導入率が1年で倍増し、2025年の34%から73%まで上昇したと報じられています
  • ただし恩恵は一様ではなく、AIを高度に使いこなす上位15%の「AI Trailblazers(先駆者)」層だけが昇進や好評価、昇給で有意に高い結果を報告しているとされています

背景と詳細

記事によれば、Public Firstは英国の労働者をAI習熟度に応じて4段階に分類しています。AIを全く使わない「AI Spectators」が10%、簡単なタスクで試験的に使う「AI Experimenters」が38%、日常ツールとして定期的に使う「AI Practitioners」が37%、そして高度な創造的活用や自動化まで踏み込む「AI Trailblazers」が15%という内訳です。

最上位層であるTrailblazersは、昇進を報告する確率が84%高く、好評価を得る確率が88%高く、昇給を報告する確率も55%高いとされています。さらに週8時間分の作業時間削減効果があり、これは実質的に1日分の追加勤務時間に相当すると説明されています。

一方で、AI活用が広がらない要因として記事は3つの障壁を挙げています。行動面では、プロンプトを繰り返し改善したりマルチモーダル機能を使いこなしたりする習慣が根付いていないこと(過去の利用者のうちプロンプト改善を試みたのは37%にとどまるとされています)。認知面では、従来の検索ボックス的な発想から抜け出せず、AIを創造的なパートナーとして扱えていないこと。組織面では、AI利用について専門的な指導を受けている人が全体の3分の1未満にとどまっている点が指摘されています。

こうした課題への対応として、Googleは「AI Works for Britain」という取り組みを紹介しています。これは既存のDigital Garageプログラムを拡張したもので、過去10年間で120万人以上を訓練してきた実績があるとされ、英国政府と協力して2030年までに1,000万人がAIスキルを習得できるよう支援する目標を掲げていると報じられています。あわせてPublic Firstが新たに「AIスキル診断クイズ」を立ち上げ、個人が自分の習熟度を把握し実践的にスキルを高められるようにするとしています。

なぜ重要か

日本でも生成AIの企業導入が急速に広がっていますが、今回の英国の調査結果は「導入率の上昇」と「実際の恩恵の偏り」が別問題であることを示唆しています。単にAIツールを使わせるだけでなく、プロンプトの工夫や多様な使い方を身につけた層だけが昇進・昇給という具体的な成果につなげている点は、日本企業のAI研修設計にも示唆を与えそうです。特に、専門的な指導を受けている人が少ないという組織面の課題は、日本の多くの職場にも共通する可能性があります。

今後の見通し

Googleは英国政府と連携したAIスキル育成の目標年を2030年としており、今後数年で研修の規模拡大が進むとみられます。ただし、AI活用の「格差」がどこまで縮小するかは、企業側の指導体制の整備にかかっている部分も大きく、今回の報告だけでは判断が難しい面もあります。