スペイン・バルセロナのCentre for Genomic Regulation(CRG)の研究チームが、体から摘出された眼球の劣化を防ぎ、視覚機能を保ったまま保存する装置を開発したと、米メディアMIT Technology Reviewが報じました。装置は「Eye-in-a-Care-Box(ECaBox)」と呼ばれ、眼球移植という長年実現が難しいとされてきた医療技術を前進させる可能性があるとされています。Pia Cosma氏らの研究チームは、ブタの眼球や人の眼球を使った実験で、この装置により眼球の機能をより長く保てることを確認したと報じられています。
ポイント
- CRGのPia Cosma氏らが、摘出眼球を保存・復活させる装置「ECaBox」を開発したと報じられています
- 眼球に通常血液を送る動脈から酸素豊富な液体を流し込む「灌流」という技術を使っています
- ブタの眼球実験では、装置を使わない眼球が24時間以内に劣化したのに対し、ECaBoxで処理した眼球は生存能力が著しく高く、光への反応も見られたということです
- 人の眼球12個(6人分)を使った実験でも、網膜の保存に成功したと報じられています
- 2023年に米NYU Langoneが行った顔面移植を伴う眼球移植では、患者は回復したものの移植した眼は視機能を獲得できなかったとされています
背景と詳細
眼球移植は角膜移植とは異なり、眼球全体を移植する非常に難しい手術です。記事によれば、手術そのものが難しいことに加え、眼球は体から摘出された直後から急速に劣化し始めるため、移植までに視覚機能を保てるかどうかが大きな課題となってきました。2023年5月には米NYU Langoneのチームが、顔の一部とともに眼球を移植する手術を実施しましたが、患者の回復は良好だったものの、移植された眼球は視機能を獲得できなかったと報じられています。
こうした背景を受け、Cosma氏らの研究チームは、摘出後の眼球をできるだけ長く生きた状態に近い形で保つ装置の開発に取り組んできました。ECaBoxは、眼球を専用の「ベッド」に置き、通常は血液を供給する動脈を通じて酸素豊富な液体を送り込みながら、余分な液体を排出し、密閉容器内で温度と圧力を一定に保つ仕組みだとされています。
実験では、まず入手しやすく人の眼球と構造が似ているブタの眼球が使われました。装置を使わなかった眼球は24時間以内に劣化しましたが、ECaBoxで処理した眼球は著しく生存能力が高く、光に反応する様子も確認されたと報じられています。一部の眼球は処理開始から15分ほどで反応を示し、10時間以上機能を維持したケースもあったとのことです。さらに、6人のドナーから提供された人の眼球12個を使った実験でも、網膜組織の保存に成功したとされています。米マサチューセッツ総合病院のShannon Tessier氏は、この成果について網膜保存の分野における新しい可能性を開くものだとコメントしています。
なぜ重要か
日本でも角膜移植は広く行われていますが、眼球全体の移植は世界的にもほとんど実現していません。網膜の病気や視神経の損傷による失明は現在の医療では回復が難しく、根本的な治療法が長く求められてきました。今回報じられた装置は、まだ研究段階のものではあるものの、ドナーから提供された眼球をより良い状態で保存できれば、将来的な眼球移植や網膜再生研究の土台になる可能性があります。日本の眼科医療や再生医療の研究者にとっても、注視すべき技術動向だといえそうです。
今後の見通し
研究チームは、手術室で使える携帯型のECaBoxを開発し、心停止後のドナーから提供される眼球の劣化を最小限に抑えることを目指しているとされています。ただし、これはまだ基礎研究の段階であり、実際に人への眼球移植で視覚を回復できるかどうかは今後の検証を待つ必要がありそうです。