米Vercelの共同創業者兼CEO、ギレルモ・ラウチ氏が米TechCrunchのインタビューで、AIエージェント業界の次なる争点について語りました。同氏が掲げるのは、AIモデルとそれを動かすエージェントを切り離し、部品のように自由に組み合わせられる「オープンなプロトコル」の世界を実現すべきだという主張です。Vercelは現在、1日に600万件のデプロイメントを処理し、その半数がコーディングエージェントによるものだといい、同社のAIゲートウェイには1日1兆トークン以上が流れていると報じられています。プロダクション環境での運用が進むほど、開発者は「価格対性能」を重視し始めるとラウチ氏は述べています。
ポイント
- ラウチ氏は、モデルとエージェントを一体化した製品として提供するのではなく、モデルを差し替え可能な部品(モジュール)として扱う、従来型ソフトウェア開発の発想を業界標準にすべきだと主張
- Vercelは「この世代のAWS」を目指すとし、特定ベンダーに縛られないオープンプロトコルの実現を掲げている
- 開発現場ではこの1年で、単一のAIラボのモデルだけを使う体制から、OpenAI・Anthropic・Google Geminiに加え、DeepSeekやGLM-5.2など中国発オープンモデルも併用する体制へ移行が進んでいると指摘
- プロダクション最適化を進めるほど、開発者は価格と性能のバランスで判断するようになるとラウチ氏は説明
- Vercelは自然言語でエージェントの指示・スキルを定義するフレームワーク「Eve」と、データアクセス制御を担う「Vercel Sandbox」を展開し、企業向けエージェント基盤の整備を進めている
背景と詳細
Next.jsの開発元として知られるVercelは、AIコーディングエージェントの普及に伴いホスティング・インフラ需要が急増している企業の一つです。記事によれば、同社は1日6百万件のデプロイメントを処理しており、うち半数がコーディングエージェント由来だといいます。加えて、同社のAIゲートウェイには1日1兆トークン以上が流れていると報じられています。
こうした規模の急拡大を背景に、ラウチ氏が問題提起しているのが「モデルとエージェントの分離」です。従来、多くのAI企業はモデル(知能の中核)とそれを使うエージェント(具体的なアプリケーションやワークフロー)を一体のプロダクトとして提供する傾向がありました。ラウチ氏は、この両者を切り離し、開発者がモデルを差し替え可能な部品として扱えるようにすべきだと主張しています。狙いは、特定企業のモデルに固定される「ベンダーロックイン」を避け、価格性能比に応じて自由に選択できる余地を生み出すことです。
実際、モデル選択の現場は多様化が進んでいるといいます。1年前は多くの開発チームが単一ラボのモデルを選ぶのが標準的でしたが、現在はOpenAI・Anthropic・Geminiに加え、DeepSeekやGLM-5.2のようなオープンモデルの採用が拡大していると記事は指摘しています。ラウチ氏はこの流れを、まさに「分離」が実践されつつある例として捉えているようです。
Vercel自身も、企業がエージェントを安全に業務システムへ組み込むための基盤整備を進めています。エージェントの指示やスキルを自然言語で定義できるフレームワーク「Eve」、データアクセスやポリシー適用を担う「Vercel Sandbox」がその例です。記事では、トークン消費を牽引する代表的な用途として「コーディングエージェント」と「企業内エージェント」の2つを挙げており、後者にはデータアクセス制御や監査機能が不可欠だとしています。
なぜ重要か
AIエージェントを導入する日本企業にとっても、特定ベンダー・特定モデルへの依存を避ける設計思想は、将来のコスト最適化やモデル乗り換えの柔軟性に直結する論点です。Vercelの事例は、コーディングエージェントが実運用のデプロイの半数を占めるなど、AIエージェントがすでに開発インフラの需要を左右する規模に達していることを示しています。DeepSeekやGLM-5.2のような中国発オープンモデルの採用拡大は、モデル選定において「欧米大手ラボ一択ではない」という選択肢の広がりを示唆するものです。また、企業内エージェントにはデータアクセス制御や監査機能が不可欠だという指摘は、日本企業が社内システムにAIエージェントを組み込む際のガバナンス設計を考えるうえでも参考になります。
今後の見通し
モデルとエージェントの分離が業界標準として定着するかどうかは、OpenAIやAnthropicなど大手ラボが自社エコシステム内での統合をどこまで志向するか次第という面もあり、今後の各社の戦略次第で流動的です。Vercelが掲げる「オープンプロトコル」路線が広く支持されるか、それとも主要モデル各社が囲い込みを強めるかは、今後の業界動向を注視する必要があります。