英国の金融行為監視機構(FCA)の幹部が、金融サービスにおけるAI活用の急速な広がりに規制当局が追いつけていないとして「軍拡競争(arms race)」という言葉で警鐘を鳴らしています。FCAで消費者・競争政策を統括するシェルドン・ミルズ(Sheldon Mills)executive directorは、英国の消費者が家計や貯蓄、借入の判断にAIツールを使う動きが広がる一方、既存のルールがAI特有のリスクに十分対応できていないと指摘しました。政府と議会に対し、監督当局により大きな権限を与えるよう求めていると報じられています。ChatGPTのような汎用の対話型AIが金融アドバイスに使われる場面が増えていることも、今回の警告の背景にあります。
ポイント
- FCA幹部シェルドン・ミルズ氏が、AIの金融サービスへの浸透スピードに規制が追いつけない「軍拡競争」状態にあると議会に説明したと報じられている
- ミルズ氏が委託した調査では、英国成人の5人に1人が貯蓄や借入などの判断をAIモデルに任せることに前向きだと報じられている
- FCAは、AIモデルの意思決定プロセスを説明させる権限、アルゴリズムを監査する権限、消費者に害を与えたシステムに罰則を科す権限などの新設を求めている
- ChatGPT・Claude・Geminiなど大規模言語モデルが金融アドバイスを提供する場合に規制対象へ含めるべきか、3〜6カ月以内に検討する方針だという
- OpenAI・Anthropic・Amazon・Google・Microsoftなど大手テック企業を「重要な第三者(critical third parties)」規制の対象に含める案も浮上していると伝えられている
背景と詳細
FCAは2026年1月27日、AIが個人向け金融サービスをどう変えるかを検証する長期レビュー「ミルズ・レビュー」を開始しました。今回の「軍拡競争」という発言は、このレビューの一環としてミルズ氏らFCA幹部が英議会に行った説明の中で出たものと報じられています。
背景には、銀行や貸金業者、取引プラットフォームがAIをカスタマーサービスのチャットボットから与信審査、不正検知、投資助言まで幅広く導入している実態があります。FCA幹部は、こうしたAIモデルの「中身を見る」能力が監督当局に必要だと訴えており、与信判断や金融アドバイス、不正検知に影響するAIの意思決定プロセスを理解できるようにすべきだとしています。既存の金融規制はAIが登場する前に作られたものが多く、算出過程がブラックボックス化しやすいAIモデル特有のリスクを想定していない点が課題とされています。
英議会の委員会も、消費者保護と説明責任に関する実務的なガイダンスを2026年末までにFCAが示すよう求めていると報じられています。あわせて、ChatGPTのような汎用AIチャットボットが金融アドバイスを提供する場合にこれを規制の枠組みに含めるべきかどうかについても、FCAは今後3〜6カ月以内に結論を出す方針だとされています。
なぜ重要か
日本でも家計管理や資産運用の相談にAIチャットボットを使う人は増えており、英国で起きている規制論議は他人事ではありません。AIによる助言の透明性や説明責任、誤った助言が生じた際の責任の所在といった論点は、日本の金融当局や利用者にとっても共通の課題です。特に、ChatGPTのような特定の金融業向けに作られていない汎用AIが実質的に金融アドバイスの窓口になりつつある現状をどう扱うかという問題は、日本での規制設計を考える上でも参考になりそうです。大規模言語モデルの提供企業をどこまで金融規制の対象に含めるかという論点も、今後の国際的な規制動向を占ううえで注視に値します。
今後の見通し
FCAが実際にどこまでの権限を得られるかは英国政府・議会の判断次第であり、現時点では確定していません。ChatGPTなど汎用AIを金融規制の対象に含めるかどうかの検討結果は、今後3〜6カ月程度で示される見通しですが、法改正を伴う場合はさらに時間がかかる可能性もあります。