OpenAIのサム・アルトマンCEOが、米政府に自社株式の5%を譲渡する案を巡ってトランプ政権と交渉していると、英フィナンシャル・タイムズが2026年7月2日に報じました。これを受けCNBCやフォーブス、TIMEなど米メディア各社が一斉に取り上げ、AIがもたらす富をどう国民に還元するかという長年の議論が改めて注目を集めています。米MIT Technology Reviewは、この5%分をアメリカの全世帯数で単純に割ると1世帯あたり300ドル強にしかならないと試算し、構想の実現性そのものに疑問を投げかけました。

ポイント

  • FTの報道によると、OpenAIは米政府への5%株式譲渡案を提示し、政治的圧力の緩和を狙っている
  • OpenAIは2026年3月の資金調達ラウンドで評価額852億ドル(post-money)とされ、5%は約426億ドル相当
  • MIT Technology Reviewの試算では、この426億ドルを全米の世帯数で割ると1世帯あたり約300〜320ドルにとどまる
  • 交渉にはトランプ大統領のほか、ベッセント財務長官、ルトニック商務長官が関わっているとされる
  • 分配方法はアラスカ州の政府系ファンド(Alaska Permanent Fund)を参考にした基金方式が検討されている

背景と詳細

アルトマン氏はかねてAIが生む富を国民全体で分かち合うべきだと主張してきました。MIT Technology Reviewによれば、氏は2021年のエッセイで、一定規模を超える評価額の全企業が毎年市場価値の2.5%を基金に拠出するという、より包括的な構想を示していたとされています。今回FTが報じた5%株式譲渡案は、それに比べると対象をAI大手数社に絞った、より限定的な内容だといいます。OpenAI自体も2026年4月に、産業政策に関する提案として関連する構想を公式に打ち出していたと報じられています。

報道によれば、アルトマン氏はこの5%案について、AIがもたらす恩恵を国民と分かち合う最善の方法だと説明しているといいます。具体的には、OpenAIをはじめとする米国の主要AI企業各社が、評価額の5%相当をアラスカ州の政府系ファンドのような投資ビークルに拠出し、そこから得られる運用益を国民に配当として還元する仕組みが検討されているとみられます。株式そのものを国民に直接配分するのか、ファンドとして運用してから利益分配するのかは、報道の時点でも明確になっていません。

この構想は超党派的な関心を集めている点も特徴です。民主党のバーニー・サンダース上院議員は以前から、大手AI企業の株式の50%を公的に保有すべきだと主張しており、規模や手法は異なるものの「AIの富を国民に還元する」という方向性では共通しています。もっとも、OpenAIは現時点で利益を出しておらず、配当の原資をどう確保するかという実現可能性の課題も残っています。

なぜ重要か

この動きは、AI企業が巨額の評価額を得る一方で、その恩恵が一般市民にどう及ぶのかという問いに、政府と企業がどう向き合おうとしているかを示す事例です。日本でも生成AIの経済効果をどう社会に還元するかという議論は今後避けて通れないテーマであり、米国での「国民配当」構想の実現可能性と限界は参考材料になります。またMIT Technology Reviewが指摘するように、AIへの社会的不信への対処や政権との関係維持という企業側の思惑も透けて見え、AI企業と政府の関係性を見る上でも注目に値します。1世帯あたり数百ドルという試算自体が、巨大な評価額の数字と実際に個人が受け取る恩恵との間に大きな隔たりがあることを浮き彫りにしている点も見逃せません。

今後の見通し

現時点ではあくまで交渉段階の構想であり、株式譲渡や基金設立が正式に合意されたわけではありません。MIT Technology Reviewは、5年越しの議論にもかかわらず具体的な制度設計が進んでいる兆候は乏しいと指摘しており、今後トランプ政権との交渉がどこまで具体化するか、また他の大手AI企業が同様の枠組みに参加するのかを注視する必要がありそうです。