米国のトランプ政権が2025年8月に発足させた「National Design Studio(NDS)」による連邦政府サイトの全面刷新計画が、始動から1年が経過してもなお難航していると、米Ars Technicaが報じました。同誌によれば、政府横断のウェブデザイン標準を更新する計画自体が延期されている一方、公開済みの一部サイトではAIが生成したとみられる不自然な画像やコードが見つかり、批判を招いています。NDSはAirbnb共同創業者のジョー・ゲッビア氏が「最高デザイン責任者」として率いており、対象は連邦政府が運営する約2万6千〜2万7千のウェブサイトに及ぶとされています。
ポイント
- トランプ大統領は2025年8月21日の大統領令で国家デザイン・スタジオ(NDS)を新設し、Airbnb共同創業者のジョー・ゲッビア氏を最高デザイン責任者に任命した
- NDSは連邦政府が運営する約2万6千〜2万7千のウェブサイトを対象に、デザインと使い勝手を統一する「One Government」構想を掲げている
- 各省庁には2026年7月4日(独立250周年)までに「初期成果」の提出が義務付けられていたが、報道によればウェブ標準そのものの更新計画は延期された
- 一部サイトでは6本指の子どもの画像などAI生成とみられる不自然なコンテンツや、「不注意」とみられるコードが見つかったと報じられている
- アクセシビリティの専門家からは、コントラスト不足や見出し構造の欠落など、ウェブアクセシビリティ基準(WCAG)を満たさない例が複数指摘されている
背景と詳細
NDSは2025年8月、トランプ大統領の大統領令「America by Design」に基づき設立されました。目的はオンラインの行政サービスを「使いやすく、かつ美しく」することで、ウェブデザインだけでなく物理的な公共空間のデザインも対象に含むとされています。組織のトップである最高デザイン責任者にはAirbnbの共同創業者ジョー・ゲッビア氏が起用され、事務局長はホワイトハウス首席補佐官に直接報告する体制が敷かれました。
計画では、既存の「U.S. Web Design System」という各省庁共通のデザインツールキットを、単なる指針ではなく統一ブランド基準へと格上げし、市民がどの省庁のサイトを訪れても書体やナビゲーションの体験が同じになることを目指していました。しかし報道によれば、発足から約1年が経過した現在も、この横断的な標準更新の計画自体が延期されている状況です。
一方で先行公開された一部の省庁サイトでは、AIツールを使ったとみられる制作物に問題が見つかっています。報道によれば、あるサイトでは指が6本ある子どもの画像が使われるなど、AI生成らしき不自然なビジュアルが確認されたほか、別のサイトのコードにも「AIが生成した、または不注意による」と見られる箇所があったとされています。アクセシビリティの専門家からは、コントラストの低さや見出し構造の欠落、データ通信量の大きいダウンロードファイルなど、ウェブアクセシビリティ基準(WCAG)を満たさない事例が複数指摘されています。米国では2022年に、11年にわたり連邦政府のデジタルサービスを支えてきた専門チーム「18F」が「不要不急」の名目で廃止されており、政府内のウェブ専門人材の不足が今回の混乱の背景にあるとの指摘も出ています。
なぜ重要か
今回の事例は、行政サービスのデジタル化を急ぐ組織にとって、AIを設計・実装の効率化ツールとして使う際の落とし穴を示す実例といえます。特にアクセシビリティやセキュリティのような専門知識を要する領域を、AIによる自動生成だけで代替しようとすると、品質や信頼性を損なうリスクがあることが浮き彫りになりました。日本でも自治体や企業のウェブサイト・行政手続きのデジタル化にAIツールの活用が広がっていますが、生成物のチェック体制や専門家によるレビューを省略しないことの重要性を、あらためて考えさせる事例です。
今後の見通し
NDSが今後どのように体制を立て直し、ウェブ標準の更新計画を進めるかは不透明です。2026年7月4日の期限をめぐる各省庁の対応状況や、指摘されたアクセシビリティ・AI生成コンテンツの問題への具体的な是正策が今後の焦点になるとみられます。続報があれば、あらためてお伝えします。