ChatGPTやClaudeに「1から10の間でランダムな数字を教えて」と尋ねると、ほぼ必ず「7」という答えが返ってくることをご存じでしょうか。米MITテクノロジーレビューが報じたところによると、主要なLLM(大規模言語モデル)は自由回答形式の質問に対して驚くほど画一的な答えしか出せない「グループシンク(集団思考)」あるいは「モード崩壊」と呼ばれる状態に陥っているといいます。オーストラリアのスタートアップSpringboardsは、この問題の解決を目指すAIモデル「Flint」を開発し、広告・マーケティング業界向けのブレーンストーミングツールとして提供を始めました。
ポイント
- ChatGPT・Claude・Geminiなどの主要LLMは「1〜10のランダムな数字」を尋ねるとほぼ常に「7」、続けて尋ねると「3」か「4」、さらに続けると「8」か「9」という決まったパターンで答えるといいます
- 車の名前を尋ねればトヨタやホンダばかり、「時間」を比喩で表現させても「時は河」「時は織り手」といった表現に偏るなど、自由回答課題での多様性の乏しさが「モード崩壊」として知られています
- 研究者らの論文「Artificial Hivemind」(NeurIPS 2025で最優秀論文賞を受賞)は、多くのLLMが似た手法・似たデータ・似たタスクで学習されていることが原因だと指摘。OpenAIも、信頼性と一貫性を重視した学習が高確率な応答への収束を招くと認めています
- 豪スタートアップSpringboardsは、アリババの公開モデル「Qwen 3」をベースに、出力全体の温度(temperature)パラメータを一律に上げるのではなく、多様な選択肢が生まれ得る特定の箇所を見極めてそこだけランダム性を高める手法でモデル「Flint」を訓練しました
- Flintは現在、広告・マーケティング業界のブレーンストーミング支援ツールとして提供されており、利用企業からは「平均値に引き戻されるツールでは境界を超える発想は作れない」との評価も出ているといいます
背景と詳細
「グループシンク(集団思考)」問題は、コーディングや事実検索のように「正解が一つ」の作業では大きな支障にはなりません。むしろ一貫して正確な答えを返すことが望ましいとされます。しかし、企画やブレーンストーミング、創作といった自由度の高いタスクでは話が別です。同じプロンプトを複数のLLMに投げても判で押したように似た答えばかりが返ってくるなら、AIは発想を広げる道具として機能しにくくなります。
MITテクノロジーレビューが紹介した研究「Artificial Hivemind」は、この現象の背景を分析したものです。同論文は2025年のNeurIPS(機械学習分野の主要国際会議)で最優秀論文賞を受賞しており、多くのLLMが似た方法・似たデータセット・似た訓練タスクを使って作られていることが、モデル間はもちろんモデル内部でも応答の均質化を招いていると指摘しています。OpenAIも同様の見解を示しており、信頼性と一貫性を高めるための学習プロセスそのものが、高い確率で選ばれる「無難な」応答への収束を招いていると認めているといいます。
こうした状況に一石を投じようとしているのが、オーストラリアのスタートアップSpringboardsです。同社が開発した「Flint」は、アリババが公開しているオープンソースモデル「Qwen 3」をベースにしています。開発チームは、出力全体にわたって温度パラメータを一律に引き上げるのではなく、複数の妥当な選択肢が存在し得る特定の出力ポイントを特定し、その箇所にだけ意図的にやや意外性のある単語やフレーズを差し込むという手法を採用しました。これにより、他の一般的なタスクでの性能を落とすことなく、創造的な課題における出力の多様性を大きく高めることを狙っています。
現在Flintは、広告・マーケティング分野の専門家向けにブレーンストーミング支援ツールとして提供されています。マーケティング企業Uncommonのマキシミリアン・ワイグル氏は、「平均的な答えに引き戻されてしまうツールでは、既存の枠を超える発想は生まれない」と述べ、Flintが従来とは異なる視点をもたらす点を評価しているといいます。
なぜ重要か
生成AIは日本でも企画書作成やアイデア出し、コピーライティングなど「発想支援」の用途で広く使われ始めています。もし主要なAIチャットボットが実際には狭い範囲の「無難な答え」しか返していないとすれば、複数のツールを使い比べても似たようなアウトプットしか得られず、かえって発想の幅を狭めてしまう恐れがあります。特に広告・マーケティング・商品企画のように「他社と違う切り口」が価値を持つ領域では、AIの回答が均質化しているという事実を知っておくことは、ツール選びや使い方を見直す判断材料になります。今回の報道は、AIの「賢さ」を精度だけでなく「答えの多様性」という軸でも評価すべきだという視点を示しています。
今後の見通し
Flintは現時点では広告・マーケティング業界向けのブレーンストーミング用途を中心に展開されており、対応領域が今後どこまで広がるかは元記事からは分かりません。モード崩壊への対処法として温度パラメータの一律調整に頼らない手法が注目される中、他の主要AI企業が同様のアプローチを自社モデルに取り入れるかどうかも今後の焦点になりそうです。