カリフォルニア州が導入している低炭素燃料基準(LCFS)制度をめぐり、酪農家向けの「メタン削減」奨励策に根本的な計算上の欠陥があるとMIT Technology Reviewが報じました。牛の糞尿から出るメタンを回収して天然ガス(バイオメタン)に変え、車両燃料として売る仕組みは酪農業界で急速に広がっています。しかし専門家は、この制度が短期的な温暖化を抑える一方で、長期的にはむしろ温暖化を悪化させかねないと指摘しています。石油会社が購入するクレジットの価値が実態と大きくかけ離れているとの声も上がっています。

ポイント

  • カリフォルニア州のLCFS(低炭素燃料基準)は、運輸燃料業界に炭素含有量の削減を義務付ける制度
  • 酪農家が牛糞から出るメタンを嫌気性消化槽で回収し、天然ガスとして販売すると「LCFSクレジット」を得られる
  • UCバークレーの経済学者Aaron Smith氏によれば、バイオガス車1台分のクレジットで、ガソリン車26台分の排出超過を相殺できる計算になっている
  • メタン由来のバイオガス設備由来のクレジットは2020年以降1000%増加し、累計10億ドル超の価値を生んだと報じられている
  • バイオメタンは運輸エネルギー供給の約1%に過ぎないのに、LCFSクレジット全体の21%を占めているとされる

背景と詳細

LCFSは、ガソリンや軽油を扱う石油会社に対し燃料の炭素排出量削減を義務付け、達成できない分をクレジット購入で相殺させる仕組みです。牛糞は通常、酪農場の巨大な野外ラグーン(貯留池)に放流され、そこで微生物がメタンを発生させます。嫌気性消化槽を設置するとこのメタンを回収し、精製して天然ガス(バイオメタン)として車両燃料や発電に利用できます。石油会社はこの分のクレジットを農家から購入することで自社の規制達成に充てており、酪農業界にとっては新たな収益源として急速に普及しました。

問題視されているのは、クレジットの計算方法そのものです。カリフォルニア州はメタンの温暖化効果をCO2の約25倍(100年換算)として計算していますが、メタンは大気中で数十年程度で分解される一方、CO2は数百年から数千年にわたり蓄積し続けます。つまりこの制度は、短期的な温暖化影響を減らす代わりに、ほぼ恒久的に残るCO2由来の温暖化をむしろ増やしてしまう構造になっていると記事は指摘しています。

こうした歪みを反映してか、酪農由来バイオガスのクレジット生成量は2020年以降1000%増え、累計10億ドルを超える価値を生み出したと報じられています。一方で、実際に供給される運輸エネルギーの量は全体のわずか1%程度にとどまり、クレジット生成量では制度全体の21%を占めるという不均衡が生じているとされます。カリフォルニア州は2024年、この仕組みの一部を2050年以降も維持する規制改定を行ったと伝えられています。

なぜ重要か

日本でも脱炭素・カーボンクレジット制度の設計が今後本格化しており、この事例は「削減量の計算方法次第で制度の実態が大きく歪む」という教訓を示しています。特にメタンのようにライフサイクルが短い温室効果ガスを、CO2と同じ土俵で単純換算することのリスクは、農業・畜産分野の排出対策を検討する上で参考になります。またクレジット取引が本来の排出削減効果と乖離した「数字合わせ」に陥る危険は、他国のオフセット市場にも共通する課題です。日本の酪農・バイオガス関連事業者や政策立案者にとっても、制度設計の透明性確保が重要になりそうです。

今後の見通し

記事は、産業全体がネットゼロを目指す時代に、一部の業界が排出削減の負担を他業界に転嫁する仕組みは制度疲労を起こしつつあると論じています。カリフォルニア州が今後、メタン換算方法やクレジット付与基準を見直すかどうかは不透明ですが、2024年の規制改定で一部制度が2050年以降も存続する方向にあることから、当面は現行の枠組みが続く可能性が高いとみられます。米国内外でLCFS型制度の妥当性を問う議論は今後も続きそうです。